「組込みコンピュータ」をイチからおさらい
~20年を超える出荷実績をもつPFUに聞く~

世の中には「コンピュータ」が溢れている。日々仕事で使うパソコンはもとより、様々な機械がコンピュータによって制御されている。産業機械や医療機器、通信機器など、数え上げれば、具体例は枚挙にいとまがない。
そうした機械を制御するコンピュータには、「組込みコンピュータ」と呼ばれるものがある。

この「組込みコンピュータ」とは一体何なのか。パソコン(パーソナルコンピュータ)やマイコン(マイクロコンピュータもしくはマイクロコントローラ)とは何が違うのか。そして、「組込み」はなぜ求められるのか。

PFUで「組込みコンピュータ」を取り扱うインダストリープロダクト事業部の橋本事業部長代理に話を聞いた。

産業分野で活躍する組込みコンピュータ

「組込みコンピュータ」とは一体何か。

それは、「機械に組み込むことに特化して開発されたコンピュータ」のことだ。「コンピュータ」というだけあって、組込みコンピュータも、パソコンと同じようにCPUやメモリ、通信機能やグラフィックカードなどを搭載している。

この「組込みコンピュータ」は、パソコンといったい何が違うのか、橋本は次のように説明する。

[橋本]「オフィスでの事務作業にはパソコンが使われていますが、オフィス以外にもコンピュータは世の中の様々な場面で使われていますよね。

例えば工場のロボットや製造装置、加工機や検査装置。

また、医療機器でいうと、CT(コンピュータ断層診断装置)やMRI(磁気共鳴画像診断装置)、X線などの検査装置があります。

そのほか、ビルの管理や携帯電話の無線基地局、鉄道の券売機などもコンピュータで制御されています。

こういった場面では、文書作成や表計算のようなオフィス業務向けの機能は必要ありませんが、その産業の用途に特化した機能が必要です。
それぞれの産業に必要とされる最適な機能を搭載したコンピュータ、それが『組込みコンピュータ』です。」

組込みコンピュータの役割

産業用途の組込みコンピュータと聞くと、小型の「マイコン」をイメージする人が多いかもしれない。マイコンにも同じように演算装置や記憶装置、入出力装置があるからだ。

「たしかにマイコンに似ている部分も(組込みコンピュータには)あります」と橋本。違いは「装置内で行う処理の役割や機能」だという。

装置全体をコントロールする

[橋本]「マイコンは、主に家電製品などに搭載される小さなコンピュータです。マイコンが装置内で使用される場合、多くは局所的あるいは部分的な制御を担います。一方の組込みコンピュータの装置内での役割・機能としては、装置内に点在したマイコンとの接続や外部の装置とのインターフェイス、さらには装置を操作する人間とのコミュニケーションなど、その装置全体を統括し、目的とする動作の完遂を担います。」

高度なデータ処理や画面操作のためのグラフィックス機能

[橋本]「演算部にIntel社のCPUを、そしてOSにはWindowsやLinuxを搭載するなど、構成する部品を見ればパソコンやサーバなどの汎用コンピュータに近いとも言えます。多くのデータ処理や画面操作処理など、高次元なグラフィックス機能が求められるものが『組込みコンピュータ』だと言えます。」

要するに「組込みコンピュータ」はマイコンとは違い、“パソコンや汎用コンピュータによく似た、産業用途に使用される高性能のコンピュータ”と言えるだろう。

では、なぜ産業用途にマイコンとは違う最適化された高性能コンピュータが求められてきたのか、その背景について話を聞いた。

組込みコンピュータが必要とされた背景

モノづくりの現場には、少子高齢化にともなう「技術伝承の難しさ」がある。
熟練工へと育つまでには長い時間がかかるうえ、人の手による制御には品質のばらつきが避けられない。組込みコンピュータが必要とされた背景に、このような現場でも「品質と生産性を向上させる」という目的があった。橋本は次の2つのポイントを挙げる。

熟練工の絶妙な操作を高性能のコンピュータで再現

[橋本]「初期の工作機械などの製造装置は、人の手で制御され、熟練工が操作することでモノづくりが実現されてきました。

この感覚とも呼べる絶妙な操作を、熟練工に代わって自動化したい。そういった制御が高性能のコンピュータであれば可能です。

また、同時に製造レシピをデジタルで管理できます。
その装置で作り上げる製品の品質が向上するだけでなく、品質のばらつきをなくす平準化にもつながります。」

機器の連携で設計から製造までをシームレスに実現

[橋本]「製造現場では、CADシステムでの設計が主流になっています。
装置がコンピュータで制御されていれば、CADシステムから生成した設計データを製造装置までシームレスにつなげることができ、モノづくりのさらなる生産性向上を期待できます。」

また、医療機器においても、組込みコンピュータには大きな期待があるという。

[橋本]「診断情報がデータ管理されることで、履歴をコンピュータ上で閲覧できます。つまりカルテを院内で持って回る必要がなくなります。さらに、例えばAI(人工知能)を活用した診断支援や高度化につなげる動きも期待されています。」

製造装置や医療機器には、モノづくりや医療の現場を支援することだけでなく、装置を操作する際の「使いやすさ」が求められる。

その実現に向けたアナログからデジタルへの変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)による高度化には、マイコンではない高性能な組込みコンピュータは欠かすことができなかったことがうかがえる。

組込みコンピュータ開発は専業メーカーへ

従来は、各装置メーカーで組込みコンピュータも含めた自社開発が行われていたが、現在では「組込みコンピュータの設計・開発・製造を専業メーカーにまかせる」という方針が主流になっているという。

この流れについて橋本は次のように語る。

装置メーカーは自社製品機能の競争力強化に開発リソースを集中したい

[橋本]「初期の頃の装置制御ではマイコンなどが多く使われており、これは装置メーカーでも取り扱える技術でした。しかし、高性能なコンピュータに使用する演算回路であるCPUや周辺回路は高性能・高速、高密度化し、設計が大変難しくなってきています。

装置メーカーにとって、製品の売りはコンピュータではなく、その装置の機能ですから、自社製品の価値を高める機能開発にこそ、リソースを集中させたい、ということがあげられます。」

汎用パソコンの採用にはリスクがある

[橋本]「装置メーカーとして、競合他社よりも優位な新機能を実装し、市場から求められる高性能な装置を開発するには、長い時間がかかります。

装置開発で、組込みコンピュータではなく、汎用の高性能パソコンを採用した場合、汎用パソコンは製品ライフが短いですから、装置が完成して「いざ量産」という頃には、同じパソコンがもう手に入らない、ということになりかねません。

そうなると、その時点で手に入るパソコンを新たに調達し、動作検証や評価を再度行わなければならないということになってしまいます。それでは非効率です。」

組込みコンピュータへ高まる期待
    ~市場のニーズと最新の開発動向~

PFUはコンピュータ専業メーカーとして、インダストリー市場全体にコンピューティング製品とサービスを展開している。組込みコンピュータもそのひとつで、多くの装置メーカーへ継続的に供給を続けている。

近年、市場から求められていることについて橋本に聞いた。

継続的に使い続けられること

[橋本]「性能、品質、供給が大きなファクタを占めていることは変わりません。特に継続的に使い続けられるものが求められることになります。」

省スペース化への期待

[橋本]「製造機器はスペース当たりの生産性も要求され始めました。
機器装置自体を小さくし、より多くの装置で単位面積当たりの生産能力を上げることで、生産性をさらに向上させたいという期待です。そのため組込みコンピュータにも、さらなる性能の高度化、信頼性と拡張性が求められています。一方でサイズはそのまま、または、より小型化への要求が強くなっています。」

リーズナブルな共通品へ

[橋本]「アジアを中心とした諸外国からの安価な製品の登場もあり、価格についての継続的な対応が期待されています。このため、組込みコンピュータへの期待は、「高くても専用のもの」から「リーズナブルな共通品へ」の流れもあります。」

これらのニーズに対応するため、PFUでは「ソフトウェア技術も合わせた機能実現」に取り組み、また製造ラインを工夫することで、市場ニーズに合わせた新しいコンピュータを提供しているとのことだ。

また、組込みコンピュータにおける技術的なトレンドについても聞いた。

AI技術を搭載する組込みコンピュータ

[橋本]「AI(人工知能)の技術が産業で広まりつつあるなかで、AIを組込みコンピュータに搭載する動きも検討され始めています。

例えばIoTのセンサーが取得した大量のデータをAIで解析したり、機械の状態をAIが自己診断したりという用途です。検査機器などでは、AIを導入して検査を支援し、検査精度を高める試みもなされています。」

組込みコンピュータは見えないところで社会をささえている

現代の社会生活を支える様々な装置に使われる組込みコンピュータ。産業や医療の現場でAIが広まっていく裏では、マイコン、パソコン、汎用コンピュータではなく、いままで説明してきた内容に加え、高い処理能力を有する「組込みコンピュータ」が、産業機械や医療機器に採用されている。「組込みコンピュータ」は、見えないところで社会を支えているのだ。

次回は『組込みコンピュータの「失敗しない」選び方』と題し、組込みコンピュータの選定にあたって見落としてはいけないポイントを紹介する。

  • Linux®は、Linus Torvaldsの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
  • Intelは、アメリカ合衆国および / またはその他の国における Intel Corporation またはその子会社の商標です。
  • その他記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

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