近年、リチウムイオン電池を搭載した製品が増えていますが、それに伴い電池が原因となる発火事故も多く発生しています。こうした火災は、製品を使用している最中だけでなく、不適切な廃棄によって廃棄物処理現場で発生するケースもあり、重大な被害につながっています。
この記事では、リチウムイオン電池による発火を防ぐために自治体や行政が取り組んでいる対策、さらに安全・効率的にリチウムイオン電池を検知する最新技術をご紹介します。
リチウムイオン電池の現状
リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコン、モバイルバッテリー、電気自動車(EV)など、私たちの生活や産業のさまざまな場面で使われている充電式電池です。
しかし、取り扱いを誤ると発熱や発火といった事故につながる危険性があります。
リチウムイオン電池の仕組みと特徴
小型軽量で高いエネルギー密度を持ち、繰り返し充電できるのが大きな特徴です。正極、負極、電解液、セパレーター(絶縁膜)などで構成され、リチウムイオンが電解液の中を通って正極と負極を移動することによって充電・放電が行われます。
しかし、その高性能さの裏には、扱い方を誤ると発熱や発火を招くという危険性があります。可燃性の電解液が含まれているため、異常な電流や温度上昇が発生すると急激な化学反応が起こりやすくなるのです。
発火が起こるメカニズム(熱暴走、短絡)
リチウムイオン電池が発火する主なメカニズムは「熱暴走」です。
熱暴走とは、電池内で温度が急上昇し、その熱がさらに化学反応を促進し、連鎖的に内部温度が上がり続ける現象です。一定の温度を超えると電解液が分解し、可燃性ガスが発生します。このガスが発火源(火花や高温部)に触れることで燃焼に至ります。
もうひとつの大きな原因が「短絡(ショート)」です。
内部の正極と負極が直接接触する「内部短絡」は、セパレーターの破損や製造不良、強い衝撃によって起こります。また、端子が外部の金属と接触する「外部短絡」も危険で、廃棄や輸送時に発生しやすい理由のひとつです。
多発する火災事故
リチウムイオン電池による火災件数は、年々増加しています。
令和6年には、東京消防庁管内で住宅火災が106件発生し、過去最多を記録しました。
さらに、ごみ収集車やごみ処理施設でも、リチウムイオン電池などによる火災事故が増加しています。
火災事故の傾向
発生している事故について、事例をもとに傾向を紹介します。
-
使用中(充電・衝撃)
- 使用開始から1年未満の製品で、充電中のリチウムイオン電池の設計不良により、過充電となり発熱・出火。
- スマートフォンに内蔵されているリチウムイオン電池が何らかの要因により内部短絡し、出火。
- 落下によりモバイルバッテリー内のリチウムイオン電池のセパレーターが損傷し、内部短絡して出火。
-
保管中(高温)
高温環境になった夏の車内で、モバイルバッテリー内のリチウムイオン電池の構成部品が変形し、短絡して出火(2024年4月 宮城県気仙沼市)。
出典:気仙沼・本吉地域広域行政事務組合消防本部ホームページ
発火の危険性と廃棄時にも注意が必要な理由
「発火は使用中にだけ起きる」と思われがちですが、廃棄時にも大きな危険が潜んでいます。
- 廃棄・回収時(ショート)
端子の絶縁処理をせずに回収ボックスや金属ごみと一緒に捨てると、端子が接触して外部短絡を起こすおそれがあります。
さらに、廃棄後の輸送や保管の際に強い衝撃や高温環境にさらされると、内部が損傷し、使用時と同じような条件で発火する危険があります。
そのため、リチウムイオン電池は「安全な使い方」と同時に「適切な廃棄方法」を守ることが重要です。正しい廃棄を行うことで、火災事故のリスク軽減につながります。
自治体や行政での取り組み事例
こうした事故を減らすために、自治体ではさまざまな取り組み(注1)が実施されています。
注1:環境省「市区町村におけるリチウム蓄電池等の適正処理に関する方針と対策集」より抜粋
-
住民への周知・啓発の徹底
- リチウムイオン電池の適切な排出方法を選択できるように、ホームページやチラシを使って排出先や捨て方を周知。
- 広報誌や市のホームページを通じて、ごみ処理工程にリチウムイオン電池が混入することの危険性を周知。
- より多くの住民への情報伝達を図るため、アプリやSNSを活用した周知ルートの増設。
-
リチウムイオン電池の分別収集
-
リチウムイオン電池およびリチウムイオン電池が取り外せない製品を排出する方法を増やすため、公共施設やごみステーションに回収ボックスを設置し、拠点回収を行う。
出典:北九州市ホームページ
-
リチウムイオン電池およびリチウムイオン電池が取り外せない製品を排出する方法を増やすため、公共施設やごみステーションに回収ボックスを設置し、拠点回収を行う。
-
収集運搬車両への混入・運搬中の発火・延焼防止
- 収集運搬車両へのリチウムイオン電池の混入を防ぐため、ごみ投入前に、収集員が袋を開封し中身を確認。
- 収集運搬車両内に混入してしまったリチウムイオン電池が発火しないように、なるべく衝撃をかけない(パッカー車内にごみを詰め込みすぎないようにする。屋根のない平らな荷台を持つトラックで回収する)。
- 収集運搬車両内で発火した際に迅速な消火活動を行えるよう、車両に消火器や消火剤を搭載。
-
処理施設における前処理の徹底
- 衝撃がかかる破砕機等へのリチウムイオン電池の混入を防ぐため、選別作業員による手選別を行う。
-
処理施設における発火検知・延焼防止
- 発煙・発火を早期に検知するため、検知器の設置や職員による目視確認を行う。
- 発火した際の延焼を防ぐため、処理工程の構造や設備等を強化(ベルトコンベヤの素材を燃えにくい素材のゴム製に変更する。消火用散水ノズルを追設する)。
- 発煙・発火を検知した際に迅速な消火対応を行えるよう、処理施設内の点検場所や消火窓を増設。
さらに行政(環境省)では、リチウムイオン電池に関する特設サイトを開設し、火災事故の現状や防止の重要性を広く知らせています。併せて、啓発ポスターや動画といった広報ツールも配布しています。
出典:環境省
最新技術を活用した予防策
リチウムイオン電池を含む製品の回収作業や廃棄物処理現場では、人手による対応が中心ですが、機械やAIなどの技術を活用した取り組みも行われています。
従来の予防策の課題
回収や廃棄物処理現場では、収集運搬車両の作業員による目視確認、ごみの破砕処理を行う前の手選別など、手動管理が中心です。
これらの管理は人の目と経験に依存するため、回収後の輸送中や処理中に突発的な発火事故が発生しやすい環境が残ってしまいます。
AIを活用した予防策
PFUの「危険物検知AIエンジン Raptor VISION BATTERY」は、画像認識AIを使い、廃棄物処理現場でリチウムイオン電池を高精度に検出します。袋の中に入っていても、ごみの中から電池を正確に特定でき、高い認識精度を実現しています。
その認識精度は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025」コンテストにおいて第1位を獲得しました(注2)。検知率は、プラスチックごみに混入している場合で100%、不燃ごみに混入している場合で90%と、高い結果を残しています。
注2:PFUプレスリリース
共創パートナーである株式会社IHI検査計測のX線装置「LiB検知システム」には、「危険物検知AIエンジン Raptor VISION BATTERY」が採用されています。この装置は、ごみに混入したリチウムイオン電池をX線透過撮影と画像認識AIによって検知し、作業者に通知します。
この「LiB検知システム」は、東京都町田市と連携して、搬入不適ごみ検出に関する実証実験を2024年8月および2025年9月に実施しました。実験の様子は各種記事で紹介されています。
まとめ
リチウムイオン電池の発火リスクは、製品の使用中・使用後だけでなく廃棄後にも大きく存在しています。
火災事故を防ぐためには、正しい廃棄方法の周知・啓発、回収体制の強化、さらにAIを活用した予防策の導入と推進が求められます。
PFUはAI技術で正確な検知と予防を実現し、安全で持続可能な廃棄物処理環境づくりに貢献していきます。
この記事に関連するおすすめリンク
関連記事
PFUの光学技術・画像認識技術が実現する“ごみ処理業界の課題解決”と“持続可能な社会への貢献”【2025NEW環境展 出展レポート】
2025.7.2PFUジャーナル
スキャン技術で次世代のリサイクル環境を創造~未来スキャン 第2回~
2021.9.28PFUジャーナル



