自由な発想を広げる、仲間とのものづくり
~デジタル工房「もの@リオ」~

“ものづくり”と“Atrio(中庭、広場)”をあわせて名付けた「もの@リオ」は、PFU石川本社の一角にあるデジタル工房です。ドライバーやはんだごてのような工具はもとより、3Dプリンター、レーザーカッター、オシロスコープといった機器を備え、社員なら誰でも利用することができます。

デジタル技術はものづくりを加速します。「作ってみたい」から「作ってみた」までの敷居が低くなることで、ものづくりの喜びをより身近に感じることができ、また自由な発想も生まれやすくなります。

文系も理系も関係ありません。社員は誰でもこの部屋に来て、「こんなモノがあったらいいな」を試してみることができます。

自分ひとりではなく仲間と協力して、作りたいもの―アイデア―をカタチにしている社員の活動(Make部)。自作は得意ではないけれど、もの@リオの講座で手ほどきを受け、地道に試行錯誤を重ねて特許出願にまでつなげた社員。そんな「もの@リオ」発のトピックを紹介します。

※記事中に記載のある『Rising-V活動』は、現在は終了しています。

会社公認、ものづくりサークル ~Make部~

とある金曜日の就業時間後、もの@リオのテーブルを囲む社員がいました。和気あいあいとした穏やかな雰囲気の中、プロジェクターを使ったちょっとしたプレゼンが行われています。持ち寄ったお菓子をつまみながらのミーティングは、ものづくりサークルMake(メイク)部の部活動です。

先ほどのカジュアルなプレゼンは、各人が作っているものや、いま興味があるものの紹介などの情報交換でした。部員は、こだわりのキーボードや、部屋の施錠/解錠を簡単に操作するスマートロックを自作するなど、 “作ること”が大好きなメンバーもいる一方で、必ずしも全員が自作マニアというわけではありません。

Make部には、自分では作れないけどアイデアがある人、そのアイデアを実現する方法を考えて実際に作れる人、作ったものを表現(動画、ロゴ、デザイン)できる人、など、各人の得意を持ち寄っての関わりがあります。

皆で考えて作ったものを展示会に出展することもあるそうで、「展示会を訪れた人が、作品を見て驚いてくれたり、喜んでくれたりすると嬉しい」と言う、部員の櫻井さん。

作品のひとつ「まじかるペンダント」を見せてもらいました。

着ている服にペンダントをあて、しばらくするとペンダントに描かれた花模様の中心部分が光り始めます。服の色によって違う色に光るのですが、これはいま着ている服に似合う色(補色)に光っているのだそう。素敵なアイデアですよね。このペンダント、欲しい…。

「私は自分では作れないんですが、こういうモノを作りたいんだけど…ってアイデアをみんなに相談して…。この中に入ってる小さいチップは、そういうのに詳しいメンバーが考えてくれて。ほかにもいろいろ、こんな感じ(下の写真)のを作ったりしてます。え?楽しいか、って?どう見えます?(笑)」

写真手前のクマは、おもちゃHack(おもちゃにセンサーやマイコンをつけたもの)の例で、時間がくると太鼓を叩きます。奥側のイチゴ型のおもちゃは、内部に超音波の距離センサーやサーボモーターなどが詰め込まれています。子ども達に、プログラミングでどんなことができるかを伝えるために作ったものだそうです。

楽しさから生まれる価値

Make部の活動は、「もの@リオ」が目指すひとつの形といえます。ものづくりをベースにして個人が自由な発想を広げられる場、自主的に活動する仲間づくりの場です。

運営担当の楯岡さんが言います。「新しいモノをゼロから作る、って楽しいじゃないですか。それに、遊びの部分があることで、仕事にも柔軟な発想やアイデアが生まれると思うんです。」

「自分達が作っていて楽しいと感じられるからこそ、使う人が手にしたときに、喜びや価値を実感してもらえるような製品を生み出せるんじゃないでしょうか。」

もの@リオをきっかけに

もの@リオは、自作が好きで得意という社員に限らず、広く誰でも利用できるようにとの思いで運営されています。

たとえば、3Dプリンターを使うにはCADベースの設計が前提になります。いきなり作ってみるにはハードルが高いため、もの@リオで機器をはじめて使うときにはレクチャーを受けられるほか、初心者向けに講座も開催されます。講座は、所属の部署に関係なく誰でも参加できるため、“作ること”に興味を持つ社員が多数参加して思い思いのオリジナル作品を作っています。

はじめての3Dプリンター講座

この講座をきっかけに、フィールドカスタマエンジニア(以降CE)の業務に役立つツールのアイデアを形にし、特許出願にまでつなげたという社員がいます。サービス技術センターの松本さん、藤田さんにお話を聞きました。

写真左側から、松本さん、藤田さん

サービス技術センターでは、CEが作業に使う道具や作業環境を改善するために、普段から知恵を絞っています。「今後新しいものを考えるうえで役に立つことがあるかもしれない」との期待から、もの@リオの3Dプリンター講座を受講した藤田さんでしたが…。

初心者を対象にした講座で多くの受講者が楽しそうにやっている中、自分だけがなかなか思うようにできなかったと振り返ります。

藤田いろいろ教えてもらいながら最終的にはできましたが、自分には難しくて、楽しいと感じる余裕はありませんでしたね。ただ、デジタルデータからすぐに(直接)思い通りのものが作れることを実感して、「たいしたもんだな」と思いました。

モノがないとはじまらない

松本さんには、現場のエンジニア時代から「こういうモノがあるといいんだが…」と、温めていたアイデアがありました。「大がかりな発明ではないが、これがあれば少しでも作業を効率化できる。ぜひ形にして現場のCEに届けたい」と会議に臨みましたが、具体的なモノがないことで、議論がうまくかみ合いませんでした。

松本結局、アイデアって、まず形にしなきゃいけないんです。僕らは日ごろからチームで議論しながら一緒にイメージを練り上げていくんですが、メンバー同士が作りたいモノのイメージを共有できなければ、議論がまとまらない。このままでは実用化まで進められない、と感じました。

――そのときに、もの@リオを思い出して?
藤田そうです。3Dプリンターならイメージどおりに作れるかもしれない、と。もう、やるしかないなって。(笑)

作りたいモノは、もの@リオの3Dプリンターよりもかなり大きなものだったため、仕上がりイメージを4分割して作らなければなりませんでした。毎日もの@リオに通い、何度も試作を繰り返すうちに、はじめは難しく感じていた機器にも徐々に慣れ、ついに試作品が完成。

(責任を果たせたことに)ほっとした、という藤田さん。「これをベースにより深い部分まで議論できるようになりました」と、松本さん。

CEの実際の作業を具体的にイメージしながら工夫を重ねて実現したアイデアは、「今までになかった」と新規性が認められ、特許出願へと急展開を遂げます。

松本実はデザイン性も認められて、意匠出願もできたんです。それも実際に目に見える、具体的なモノを作れたから。やっぱり、もの@リオができてからですね。こうやって特許出願まで進められるようになったのは。

特許および意匠出願中のパスワードロックツール収納ケース(※1)

  • ※1お客様PCのハードディスクを交換し回収する際のセキュリティ対策として、パスワードロックをかける際に使用。ツールに必要なケーブルがあらかじめセットされており、ケースを開ければすぐ作業を開始できる工夫があります。(これまでは、現場でまずツール類を開梱、ケーブル接続し、作業後に逆の手順で梱包までを行っていました。)

アイデアをカタチに~もの@リオとRising-V活動~

ほかにも、「いまある製品をさらに使いやすくしたい」と、もの@リオで試作を重ね、製品の改善を実現した事例があります。

これは若手からベテランまで5人の社員が、PFUのRising-V活動(※2)という制度を利用して生まれたもので、イメージスキャナーScanSnapに“名刺やレシートを直感的にセットできて、紙詰まりが少ない新しいガイドを作る”というアイデアを実現しました。

このときも、もの@リオで試作品を作成し、試行錯誤を繰り返したそうです。

  • ※2Rising-V活動」は、社員の自主的な企画・提案に対して、会社が活動費も含めてその実現を支援するPFUの制度です。

仲間と一緒に、価値を届ける

誰かを笑顔に、幸せにするための何かを作ることは、このうえなく“やりがい”を感じるものです。そしてそのためなら、自分が必ずしも得意ではなくても、やり遂げられることがあります。

また、ものづくりを考えてみると、それが作り手だけで成り立つものではないことにも気づきます。

ひとつのアイデアが生まれてから実際の形になって誰かのもとへ届けられるまでには、数多くの工程があります。その各工程に、自分を活かして役割を果たす多くの仲間がいるからこそ、ようやく最後に誰かを笑顔にできる価値を届けることができます。

Make部の活動にあるように、「自分の得意なことを持ち寄り、また自分にはない“得意”を持つ尊敬すべき仲間との出会いがある」、ものづくりの会社には、そんな楽しさがあることを、もの@リオが気づかせてくれます。

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