お客様の課題を“環境スキャン技術”で解決したい
~それは、1つのプロジェクトから生まれた~

3月17日~19日、東京ビッグサイトで「2021 NEW環境展(以降、環境展)」が開催された。
今年で30回目の節目を迎えたこの環境展では、環境汚染や地球温暖化に関する課題の解決に向けて、230社の企業から環境技術をベースとした多様な製品・ソリューションが出展された。この中でPFUは、今後の新規事業創出につなげるべく、斬新かつ挑戦的な展示をいくつか行った。

その中の1つ「グリストラップ状態監視装置」は、PFUが実践している組織活性化のための、ある1つの施策から生まれたものだった。

飲食店の厨房には必ずあるグリストラップ、その衛生管理を担うユニークな装置はどのように生まれたのか。
開発に関わったメンバーの思いと、アイデア誕生の背景を紹介する。

※記事中に記載のある『未踏プロジェクト』、『旋風プロジェクト』、『風雲プロジェクト』、『Rising-V活動』は、現在は終了しています。

グリストラップって何?

「グリストラップ」という単語を聞いてピンとくる人は多くはないはずだ。
グリストラップ(グリーストラップ)とは、飲食店などの厨房の排水に含まれる油脂分や残飯、野菜くずが直接下水に流れ込まないように一時的に溜めておき、生ゴミを除去したり、水と油を適切に分離する装置である。
一般の家庭ではあまり目にすることのないこの装置は、業務用厨房での設置が必須だ。次の写真の赤ワクで示すように、厨房の床下に埋め込んで使用されることが多い。

グリストラップは業務用厨房の床下に設置されることが多い

床下に埋め込まれる前の実際のグリストラップが次の写真だ。大きさによって排水の処理容量が異なるため、厨房の規模に応じたサイズのものを使用することになる。

これがグリストラップだ! 写真の例は「高さ25cm×幅40cm×奥行25cm」

設置に関する明確な法律がある訳ではないが、「下水道法」や「水質汚濁防止法」で定めている飲食店の排水基準をクリアする上では設置が必須なのである。

さて、このグリストラップ、当然ながら設置して終わりではない。その後の定期的な清掃が重要になる。清掃が不十分なせいで悪臭や水つまりが発生し、極端な場合、一時的な営業停止になるケースだってあり得る。そのため、グリストラップの衛生管理は、飲食店やテナント管理者における大きな課題の1つになっているのである。

今回、環境展に出展した「グリストラップ状態監視装置」には、こうしたお客様の課題を解決したいという思いが込められていた。

もう一人の頼もしい“店舗スタッフ”

PFUの全社活性化施策から生まれた「グリストラップ状態監視装置」。まずは、その特徴を簡単に紹介する。

汚れを検知! 事前に通知!

グリストラップ状態監視装置とは、文字どおりグリストラップの“状態”を“監視”する装置だ。“状態”の対象は、油やゴミの量だったり、においや水の流量など。“監視”の手段はセンシングデバイスによるスキャンである。
つまり、この装置をグリストラップに取り付けることで内部の汚れ具合を検知し、必要に応じて清掃を促すなど、店舗の衛生管理の問題を未然に予防するという仕組みだ。

環境展に出展した「グリストラップ状態監視装置」のプロトタイプ版と、本装置をグリストラップに取り付けて汚れを検知するイメージを確認してみよう。

「グリストラップ状態監視装置」のプロトタイプ版。取り付け時は上下逆になる

グリストラップ内の状態(油やゴミの量、においや水の流量等)を常時監視

こんな使い方が可能

具体的な運用イメージを紹介する。
次の図は、複数店舗を管理する店舗運営管理者が利用する場合の例を示している。

「グリストラップ状態監視装置」を活用した運用イメージ

①:各店舗のグリストラップに本装置を取り付け、水位や臭気などのデータを収集する。
②:収集したセンシングデータをクラウドに集約する。
③:店舗運営管理者は、ポータル画面から各店舗のグリストラップの汚れの状況をリアルタイムに確認する。
④:店舗運営管理者は、“コトが大きくなる”前に必要な対策(清掃業者の派遣、店舗への通知)を講じる。
といった感じだ。

深刻な人手不足の問題を解決したい

飲食業界でも深刻な問題になっている人手不足。近年のコロナ禍の影響もあり、お客様が触れる場所の清掃はこれまで以上に時間をかけて行っており、店舗スタッフの業務負荷は増す一方だ。

コロナ禍ではより入念な清掃が求められ、業務負荷も増大

そうした中で、目につきにくい場所に設置されることが多く、汚れの確認が疎かになりがちなのがグリストラップだ。
こうしたお客様の課題を新たなスキャン技術で解決してくれるのが「グリストラップ状態監視装置」である。

“環境をスキャンする技術”ともいえるテクノロジーとAI技術を駆使した「グリストラップ状態監視装置」は、まさに並外れた“嗅覚と視力”を持った、頼りになる“もう一人の店舗スタッフ”といえる。

ナゾ?!  PFUとグリストラップの関係

さて、ここまで読んでいただいた読者の中には“PFUってスキャナーの会社では?” “グリストラップとどんな関係があるの?”と疑問を抱いた人もいるのではないだろうか。
ここからは、その疑問に応えることにする。

すべては“旋風”からはじまった

2019年末、新規事業創出を視野に入れたプロジェクトがPFUに発足した。「旋風プロジェクト」(注1)である。このプロジェクトの目的は、PFUのビジョンである『お客様の現場に価値を提供するエッジソリューションパートナー』の実現に向けて、社員が積極的にチャレンジする機会を提供することで組織活性化を図り、「PFU社員全員が顧客への価値提供を意識し主体的に行動する文化を醸成する」ことである。

自らの熱い意志で参加した24名がPFUの将来を自分事として捉え、「PFU技術の価値転換/新たな事業アイデアを形づくる」ことを共通テーマに据えて活動をスタートした。

あの日から1年―。あるチームの発表テーマが、事業化を目指して動き出そうとしている。それが「グリストラップ状態監視装置」という訳だ。

ナゾが解明される?!

「グリストラップ状態監視装置」の開発に関わっている事業開発統括部の笹田(ささだ)さんに、旋風プロジェクトの当時の経緯を振り返ってもらい、「PFUとグリストラップ」の関係について、そのナゾの解明に迫る。

装置の開発に関わった笹田さん

――旋風プロジェクトに応募した動機を教えてください。
笹田当時私は、スキャナーのファームウエア開発を担当していました。多忙を極める毎日でしたが、ものづくりに関係した会社に入りたいという希望が叶ったこともあり、充実していました。
一方で、PFUの新規事業創出に関わることにも挑戦してみたいという思いが漠然とありました。そうした中、全社的にアナウンスされた旋風プロジェクトの主旨や狙いに共感し、応募しました。入社5年目のときです。

――それでグリストラップの検討を開始したということですね?
笹田いえ。最初、我々のチームは、アイデアソンを通じて絞り込まれた7つのアイデアの中から「不用品の自動分類」というテーマにフォーカスして検討を進めていました。

――それが、どういう経緯で今に至ったのですか?
笹田「不用品の自動分類」というテーマは、あくまで未来洞察から推察した現場の課題・ニーズをもとに立てた仮説に過ぎません。そのため、次のステップとして仮説検証が必要になります。
そこでユーザーインタビューを実施したのですが、その過程で、あるテナント管理者様から“実はグリストラップの衛生管理で悩んでいる...”といったお話がありました。このとき、はじめてグリストラップの言葉を耳にした訳ですが、会社に戻って改めて議論した結果、この現場の課題に取り組むことがより価値があると判断して方向転換することになったのです。

――途中でテーマを変更したということですか?
笹田はい。ピッチコンテストのプレゼンまで残された時間は2週間でしたが、急遽テーマを変え、現場のお客様の課題を解決したいという思いで資料をまとめ、プレゼンに臨みました。
その結果、総合評価で1位をいただきました。

――そこから本格的にグリストラップの課題に取り組んだということですね?
笹田はい。ただ、我々が提案したアイデアが本当にお客様の課題解決につながるのかという点については、技術的評価も含め、さらなる市場調査が必要でした。
旋風プロジェクト自体はその時点では終結していたので、そこからは、社員のアイデアの具現化を支援する制度である「Rising-V活動」(注2)を活用して検証を継続しました。

旋風プロジェクトは“研修”ではなかった

笹田さんのインタビューを聞いて正直、驚いた。お客様の声をきっかけに、課題を改めて深掘りした結果、検討テーマを変更したという点だ。

それにしても、ある程度、検討が進んだ段階でテーマを変更することには問題がなかったのかと心配になるが、実は旋風プロジェクトは、一定の結論や方向性ありきの研修ではなく、お客様の現場に価値を提供することをトコトン考えることが目的である。自分たちの仮説に固執することなく、あくまで現場のお客様の課題を解決したいという信念こそがより重視されるのだ。

テーマ変更は、そのことを真剣に考え、使命を持って臨んだ結果でもあったのだ。

アイデアの価値検証に向けて議論する「旋風プロジェクト」のメンバー

チャレンジしたい人を、しっかりサポート

旋風プロジェクトでの1つのアイデアが、事業化に向けて飛躍しようとしている姿を紹介したが、実はPFUでは、旋風以外にも全社活性化プロジェクトをいくつか仕掛けている。

旋風からさかのぼること1年前。「10年後のPFUのありたい姿」を描くことを狙いとして、将来を担う若手世代を中心に編成された「未踏プロジェクト」(注3)もその1つである。部門を越えて集まった15名がPFUの未来を探索し、経営層に提言することで、彼らが描いた未来を共有するというものだ。

また、2020年には第三弾として、お客様や社会の課題を解決する事業アイデアの形成を目的とした「風雲プロジェクト」が始動し、4か月にわたる活動を展開した。ここでも「ソリューション・サービスの創出に向けてチャレンジしたい」という思いで応募した18名による、新たな事業アイデアの発掘と検討が真剣に行われた。

仮想ユーザーへのインタビューをロールプレイする「風雲プロジェクト」のメンバー

未踏、旋風、風雲は、それぞれ狙いと対象者が異なるものの、共通の旋律が根底に流れている。それは「PFUビジョンを具現化する」という点である。つまり、『お客様の現場に価値を提供するエッジソリューションパートナー』の実現に向けて、参加メンバー全員がベクトルを合わせて取り組んだということだ。

どの企業でも“全社活性化”を冠した施策を実施している。しかしPFUのそれは、ビジョンと深くつながり、その先のお客様(現場)を常に見据えている点が特徴といえるのではないだろうか。

ビジョンと聞くと、華やかな言葉だけが先行し、現実の自分との距離感を抱きがちな内容が多い中、PFUのビジョンはシンプルすぎるほどシンプルで、かつ明快だ。だからこそ、社員が一丸となって前向きに取り組む上での合言葉にも、常に挑戦する社員の背中を押してくれるキーワードにもなっているのだ。

課題を抱えたお客様がそこにいる限り…

旋風を機に、業務内容も所属も変わることになった笹田さんに改めて話を伺った。

笹田旋風では他部門の人(ときには社外の人)と関わる機会が多くありました。部門が違えば視点や考え方も異なります。そのことが、ぼんやりとした自分のアイデアに輪郭を与える契機になりました。
最初から新規事業に対する具体的なアイデアを持っている人は少ないはずです。ただ、新しいことをはじめたいという気持ちを抱くことは大切だと思います。

笹田現在はPOB(Proof of Business)を視野に入れながら、データ測定とその実効性(未然予防の有効性)を検証しています。事業化に向けては改善すべき点も多い「グリストラップ状態監視装置」ですが、いつかこの装置を使ったお客様から「PFUの技術はすごい」ではなく、「PFUの技術で問題が解決した」と言っていただけるよう頑張りたいです。
自分が楽しみながら作ったものが、お客様から評価していただける…。これに勝る喜びはないです。ものづくりの原点がそこにあるのだと思っています。

お客様の課題解決を常に優先していると語る笹田さん

PFUの社員は皆、それぞれの立場でビジョンの実現に向けて真摯に取り組んでいる。そしてビジョンの実現を支える施策も会社にはある。ただ、どんなに恵まれた施策や制度が用意されていたとしても、それを活用するのは社員。そしてその根底にあるのは、社員の思いと行動力なのだ。

「グリストラップ状態監視装置」のアイデアが生まれる端緒となった旋風プロジェクトはひと区切りをつけたが、PFUの全社活性化プロジェクトはこれからも続く。社会の課題がそこにあり、課題を抱えたお客様がそこにいる限り。

注1:旋風プロジェクトの概要や取り組みは、PFUジャーナル「お客様がいるその場所に、新しい価値を届けたい! ~エッジ技術で新分野へと漕ぎ出す~」でも紹介しているので、メンバーの熱気をぜひ感じていただきたい。

注2:社員のアイデアの具現化を支援することを目的として、個人やグループの自由な発想や取り組みを組織的に支援する活動。2002年から継続している本取り組みが認められ、一般社団法人日本能率協会が主催する「KAIKA Awards 2020」において「KAIKA賞」を受賞している。Rising-V活動の詳細は、PFUジャーナル「社員のアイデア具現化を支援 ~企画・提案支援制度「Rising-V活動」~」を参照されたい。

注3:未踏プロジェクトの概要や、活動に参加したメンバーの熱い思いについて、PFUジャーナル「次世代リーダーたちが描く企業の未来とは? ~PFU、新規事業創出に向け『未踏プロジェクト』を実施~(第一回)」「次世代リーダーたちが描く企業の未来とは? ~PFU、新規事業創出に向け『未踏プロジェクト』を実施~(第二回)」を参照されたい。

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