「ニューノーマル」ではテレワークが当たり前になる
~流れに乗れないと企業の根幹が揺らぐかもしれない~

(IT・ビジネスライター:柳谷智宣)

2020.9.25

新型コロナウイルスの影響により、テレワークが話題になりました。欧米では当たり前になっているテレワークですが、日本をはじめアジア圏では広がり始めたばかりでした。それが、緊急事態宣言により日本でもテレワークを導入する企業が増加したのです。しかし、緊急事態宣言が解除されると、テレワークの仕組みは残している企業や、これを機にフルリモートに切り替えた企業もある中、全員が出社する元の形態に戻る企業もたくさん出てきました。

様々なデメリットが見えてきて、自社にはテレワークが合わない、と判断したところが多かったのです。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後、ニューノーマルと言われる従来の常識が一変した世界になります。そこではテレワークが当たり前になり、テレワークを導入しない企業は、いい人材が採れない、社員が辞める、低い労働生産性といった課題を抱え、生き残るのが難しくなってくる可能性があります。

今回はテレワークのメリットとデメリット、そのデメリットの解消方法を紹介します。経営者がテレワークのデメリットと感じていたことが、実は全然異なる要素が原因ということもあるのです。きちんとテレワークを理解し、時間をかけて経営の舵を切れば、テレワークは決して難しいことではありません。

アフターコロナでもテレワークへの流れは止らない

総務省は以前からICT(情報通信技術)を活用してテレワークを推進してきました。テレワークとは会社のオフィスではなく、離れた場所で働くという意味です。サテライトオフィスやコワーキングスペース、もちろん自宅で働くことも含んでいます。

2020年5月に総務省が公開した「令和元年 通信利用動向調査の結果」によると、企業がテレワークを導入する目的のトップ3は「業務の効率性(生産性)の向上」や「勤務者のワークライフバランスの向上」「勤務者の移動時間の短縮・混雑回避」でした。

テレワークのメリットはまさにこの3つと言えます。自分だけの環境で働くことで業務に集中でき、アウトプットの増加が期待できます。通勤時間がなくなればその分の時間や体力を仕事に使えるようになります。健康面や家族といった理由で通勤が難しい人でも働けるようになるのは、本人と社会の両方にとってメリットがあります。

テレワークを導入すれば、通勤にかかる交通費が削減されます。オフィスに全員が集らないのであれば、フリーアドレス制にして必要な分だけのスペースに抑えることも可能です。育児や介護に時間が取られる場合も、テレワークであればフレキシブルな働き方ができます。

今の若い人は、仕事(お金)と同時に現在の生活の幸せも両立させたいと考える傾向にあります。そのためテレワークによる自由度の高い働き方は魅力に映るようです。日経HRが2018年に行った「「働き方改革」に関する意識調査」では、転職志望度が上がる制度の第2位にテレワークが入っていました。ちなみに、1位は副業・兼業の解禁です。

テレワークを導入した結果、「労働生産性=(営業利益+人件費+原価償却費)÷従業者数」が1.6倍になったというデータもあります。(総務省 平成28年通信利用動向調査)

テレワークは業務効率の改善だけでなく、社会的な課題の解決にも寄与すると見られています。従来の仕組みでは働けなかった人も活躍できるようになり、人口減少と少子高齢化対策の一環になります。インターネットが繋がっていれば仕事ができるので、地方創生にも繋がります。企業の生産性が向上して持続的な成長が見込めれば、経済成長の低下に歯止めがかかるかもしれません。イノベーションを創出できれば、国際競争力の強化も実現できます。

そのため、政府はテレワークの活用促進に取り組んでいます。例えば、総務省はテレワークを活用している企業や団体を「テレワーク先駆者」として表彰したり、経済産業省や厚生労働省などはテレワークの普及拡大を目的とした「テレワーク・デイズ」を実施しています。本来、2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会期間に、テレワークをしようという試みでしたが、ご存じの通り新型コロナウイルスの影響で延期になったのが残念です。

パーソル総合研究所の調査によると、緊急事態宣言が出る前の「3月9~15日」のテレワーク実施率は13.2%でしたが、宣言後の4月10~12日は27.9%と2倍以上に増加しています。

アメリカのTwitter社はブログにて、ロックダウンが解除されたあとも自宅勤務を続行し、希望する社員は永続的にテレワークができると発表しました。Facebookも今後10年間で半数の従業員がテレワークになる可能性があると発表し、優れた実績を上げている従業員は永続的にテレワークができるようにするとのことです。

小売店や社会インフラ、建築、医療といったテレワークが難しい業種・職種でない限り、テレワークの恩恵はあるように見えます。しかし、前述の通り、日本ではあまり普及していません。パーソル総合研究所の調査によると、緊急事態宣言が解除されると、テレワークの実施率は27.9%から25.7%に2.2ポイント減少しました。

一定数の企業は緊急事態宣言下でもテレワークは使わず、導入企業の一部も断念しているということがわかります。テレワークは、明日から実施します、と宣言してすぐに実現できるものではないのです。

行き当たりばったりにテレワークにチャレンジしてもうまくいかないのは当然

新型コロナウイルスの影響でいきなりテレワークにチャレンジした企業の多くは多くの課題に直面しました。パソコンとインターネットがあれば、なんとかなるだろうと見切り発車しても、うまくいくはずがないのです。

そもそも、そのパソコンから問題です。会社でデスクトップPCを利用している場合、貸与する端末がないということもあります。プライベートのPCを使ってくれ、というのはセキュリティ面で不安が残ります。

高性能PCを全社員分揃えるのも出費が大きくなるので、対応できない企業もあるでしょう。現在は、テレワーク導入を支援する助成金もあるのですが、1端末当たり10万円以下とされているなど制限があります。オフィスで利用するPCと比べると性能が格段に落ちて、作業効率も落ちてしまうことでしょう。

インターネット回線も問題です。従業員によってはスマホで済ませていて、固定回線を引いていないこともあるでしょう。さらには電波環境が悪く、接続速度が遅い可能性もあります。

社員同士のコミュニケーションが不足するという課題もあります。オフィスで顔を合わせなくなるため、会話が減ってしまうのです。もちろん、メールやビジネスチャット、ビデオ会議を必要に応じて活用していると思いますが、それでもコミュニケーション量は減少します。その結果、意思疎通がうまくいかなくなり、仕事に支障が出てきます。さらには、慣れないビデオ会議に疲れてしまい、メンタル面が不調になるケースも報告されています。

労働時間が把握しにくいので、タスクが積まれていると、プライベート時間との切り分けがうまくいかず、ずっと働いてしまうという人もいます。逆に、誰にも見られていないので、さぼる人も出てきます。

テレワークにすると、仕事の評価をどうしていいのかわからない、ということも聞きます。オフィスでがんばっている感じが見られればわかりやすいというわけです。

これらすべて企業側が解決できる問題です。PCやインターネット回線は適切な機材を貸与すべきですし、そうでないならテレワーク手当を支給し、自身で環境を構築してもらいましょう。交通費がかからないのであれば、それを原資として活用している企業もあります。

コミュニケーション不足の解決のキモは「雑談」。ビジネスチャットで雑談スレッドを作ったり、オンライン飲み会を開いて、ビジネスとは関係ない雑談をすることが必要なのです。役職が上の人も積極的に雑談するようにすると、雑談していいんだ、という空気感が醸成されます。

仮想空間にオフィスを作り、そこに従業員が参加して、一緒に働いているような感覚を生み出すバーチャルオフィスサービスも登場してきました。従来であれば、隣に座っている同僚にちょっと声をかけるといったことが、ネット上でできます。雑談の機会も増えて、1人で働いているという寂しさを感じずに済むのがメリットです。

労働時間の問題はテレワーク向けの勤怠管理ツールを活用すれば、手間をかけずに管理できます。働き過ぎを防止するため、終業時間を越えるとデスクトップに消せない警告画面を出すようなサービスもあります。

さぼりについては、実は根が深い問題なので注意が必要です。一定間隔でユーザーの写真を撮影したり、デスクトップ画面を共有して、作業をきっちり監視するツールが販売されていますが、従業員のモチベーションを損なうという大きなデメリットがあります。それでも、企業側が導入したがるのは、それ以外で従業員の仕事を評価できないからです。

テレワークでは勤務時間を正確に把握するのが難しいうえ、仕事のプロセスが見えにくいので、従来の方法では評価しにくくなるのです。とは言え、いきなり成果だけで評価するようになると、評価されない指導などをしなくなってしまいます。企業の文化とテレワークに適した新たな評価基準を設定し、社員としっかりと共有することが重要です。

きちんと仕事が評価される仕組みができれば、さぼれば評価が落ちるのですから頑張るしかありません。そもそも、オフィスに出勤している時でも、さぼる人はさぼっていました。

新型コロナウイルスの影響で学校が休校になり、子供が家にいるため、仕事にならない、というケースもあります。確かにその通りですが、ここは問題を切り分けましょう。これはテレワークのせいではなく、新型コロナウイルスのせいです。問題が収束するまでは、新しい対策を考えるしかありません。

そもそもテレワークでできる業務がない、という声も聞きますが、これも企業側の対応で解決できるケースが多いでしょう。例えば、紙の書類を扱っているならペーパーレス化するとか、ハンコが必要なら電子サインを利用する、なども考えられます。打ち合わせや会議、取材もビデオ会議サービスで事足りることが多いでしょう。経理や法務などのバックオフィス業務はそれぞれの部門向けに様々なサービスがあります。足が基本というイメージの営業ですが、今はオンラインで営業できるサービスも人気です。

企業のデジタルトランスフォーメーションが進めば、テレワークで業務を進めることができるようになります。

情報漏洩を防止するために適切なツールやデバイスを活用する

テレワークを導入する際は、セキュリティのことも考えなければなりません。何も対策をしていないのなら、機密情報の漏洩リスクが高まります。顧客情報がネットに流出したら、会社が傾きかねません。逆に、社内にあるデータには外部からアクセスさせない、と遮断してしまうと、テレワークでできる業務範囲が狭まってしまいます。これらの課題は、ICT技術で解決しましょう。

企業が用意したPCを貸与する場合は、システム管理者がセキュリティツールで、自動的にOSを最新の状態に保ったり、外部媒体にデータをコピーできないように設定できます。ここは、社内で貸与する場合も同じことをするので問題ないでしょう。

抜けがちなのが、通信回線のセキュリティです。自宅や外出先から社内システムに接続する際には、VPN(Virtual Private Network)が広く利用されています。遠隔地の拠点を仮想的な専用線でつなぎ、通信するイメージです。通信内容は暗号化されており、途中でデータを盗聴しても中身が漏れずに済みます。

例えば、喫茶店でテレワークをする際、何も対策をしていないPCでフリーのWi-Fiに接続し、IDやパスワードを入力するとアカウント情報を盗み見される可能性があります。VPNでつないでおけば、第三者に何を入力しているのかがばれることはありません。

テレワークでVPN環境を構築する場合は、社内にVPNルーターを設置し、ユーザーのPCにVPN接続ソフトをインストールします。低コストで設置できますが、設定や運用には一定の知識が必要になります。

重要な情報を扱う場合、そもそもデータを社外のPCに保存したくない、ということもあるでしょう。そんな時は、PCから社内システムにアクセスしても、端末内にデータを残さないサービスを利用できます。

例えば、テレワークプラットフォームサービスの「CACHATTO」は専用ブラウザからアクセスすることで社内システムを利用できますが、情報は残しません。そのため、端末の盗難や紛失時にも情報漏洩が起きません。

テレワークでは社員の私物であるスマートフォンやPCを業務で利用するBYOD(Bring your own device)を導入するケースもあります。不正な端末、問題のある端末はすぐに遮断できるようにしておくことが求められます。

「CACHATTO」はこのMDM(Mobile Device Management=モバイルデバイス管理)機能も搭載しており、Androidスマートフォンにインストールしているアプリの挙動もコントロールできます。例えば、アプリのロック解除番号を3回間違えたら設定を消去するとか、画面のロック解除を10回失敗したら端末ごとリセットし、情報の漏洩を防ぐことができるのです。

きちんと準備をすればテレワークの導入はきっと成功する

新型コロナウイルスの影響がいつまで続くのかわかりませんが、収束後でも世の流れがテレワークに進むのは間違いないでしょう。大企業に比べると中小企業のテレワーク導入率は低いのですが、今後はそうも言っていられません。

確かに、適当にテレワークを導入しても失敗する可能性はありますが、課題を整理し、きちんと準備すれば、きっと成功します。来るべきニューノーマルの時代は、常識が変わります。以前の常識は非常識になるかもしれないのです。

テレワークに一度チャレンジして失敗したり、別にこのままでも大丈夫、と考えている企業は、ぜひ本気でテレワークの導入を検討してみることをお勧めします。

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