コロナ禍を越えろ!ニューノーマルな新人教育・インターンシップへの挑戦

2020.11.24

『今年の新人教育は全面オンラインで実施する』
PFUでそんな決定があったのは、2020年4月4日。新型コロナウイルスの感染拡大により東京をはじめとする7都府県に緊急事態宣言が出される3日前のことだった。

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響をうけ、多くの企業で在宅勤務やリモートワークなど、働き方の変化を余儀なくされている。その影響は、採用活動や人材育成にも広がり、多くの説明会・インターンシップ、新人研修が中止・延期となった。

そのような情勢の中でも、PFUは、できることをやろうと、オンラインでの新人教育、インターンシップの開催を決定した。ノウハウも時間もない中、はじめての取り組みに挑んだ担当者たちに話を聞いた。

はじめてのオンライン新人教育

例年、PFUの新人教育は新人が一堂に会し、集合教育で行われる。ビジネスマナーなどの基本的な内容を2週間ほどの導入研修で学び、その後は配属先に合わせて1か月~2か月ほどの専門研修がある。その、あわせて1か月半~2か月ほどの期間が、PFU社員として必要な基本的知識を学ぶ重要な期間だ。また、新人教育には同期や先輩社員との絆を作るという、その後の会社生活を支えるために重要な役割もある。

もともと、2020年の新人教育は横浜本社に集合しての教育を予定していた。しかし、2月ごろから、国内でも徐々に感染が広がりをみせ、3月に入ると、一斉休校など新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた動きが加速しはじめた。
予定していた新人教育は、100名弱もの人間が全国から長距離を移動して、一定の期間を一緒に過ごす。感染拡大防止を考えると、新人研修の中止、あるいは大きな変更(オンライン化)を考える必要がでてきた。

日々変わる状況のなか、最適な新人教育を追求

3月半ば、担当者たちは、「オンラインになるかもしれない」と考えて、オフラインでの新人教育の準備と並行して、オンラインでの新人教育の検討をはじめたという。新人教育の企画・運営を担当したキャリア開発センターの敞田(しょうだ)さんに話を聞いた。

まずは、カリキュラムの切り分けからはじめたそうだ。
「カリキュラムを『やるか・やらないか』、というよりは、オンラインで『やれるか・やれないか』、という切り分けからスタートしました。例えば、ビジネスマナーの教育の場合、オンラインでは名刺交換などの実践練習をするのは難しいです。じゃあ実践は後にするとしても、テキストを使った学習はできるかな、という感じで、各カリキュラムの内容について、今必要かどうか、どうやってやるのか、後からでもいいのではないか、ということをひとつひとつ判断していきました」

カリキュラムの内容は多岐にわたり、一様に判断することはできない。やるべきことは膨大で、経験も他社の事例もない。そして、時間も全くない。想像してみただけでも、ひやりとした緊張と不安が這いあがってきそうな状況だ。

3月下旬、新型コロナウイルスの感染状況が一向に改善しない中、「本当に集合研修をやるべきなのか?」という想いを抱えながら準備をしていたそうだ。3月27日には、新人教育の開始を4月3日まで遅らせることが決まり、その4月3日には、数日の出社日以外はオンラインで教育を行うことが決定した。しかし、4月4日、東京での感染者数が100人を超え、いよいよ緊急事態宣言か、となったこの日。
『新人教育は全面オンラインで実施する』

ついに全日程をオンラインで実施することが決まる。PFUでは初となる、一度も新人が出社しない、一度も新人と直接会わない新人教育がはじまろうとしていた。

トラブル続出!?の環境づくり ~オンラインの準備はオフラインで~

オンラインで新人教育を行うことは決まったが、ともあれ、新人たちがオンラインで作業できる環境を『物理的に』用意しなければならない。つまりは、PC、資料や教材、ICカードなど、必要な物品を新人の手元に届ける必要がある。

100名弱もの新人のための発送準備は大仕事だ。発送するPC自体は、集合研修でも配布を予定していたため確保はできていた。しかし、物がそろえばOKというわけではない。当時の状況を聞いた。
「発送の準備はとにかく時間との闘いでした。もともと、新人さん自身に実施してもらう予定だったPCの設定についても、あらかじめ会社側で実施することになったので、PFUのPCを管理しているIT部門と新人教育を担当するキャリア開発センターのメンバーが総出で準備を行うことになりました」
しかも、配属先によって専門研修の内容が異なるため、さらに大変だ。
「専門研修ごとに教材や必要になるPC設定が違います。PCを一度すべて会議室に並べて、この人はこの設定でこの教材で、と紐づけを確認しながら、あっちではPC設定をして、こっちでは必要な教材の準備をして、と大忙しでした」

なんとか発送が終わっても、今度は新人側でのPC設定でトラブルが続出した。
「PCにログインできない」「パスワードのミスでPCがロックされてしまった」などなど。
ちょっと誰かに聞くだけで解決できたものもあったのだろうが、いかんせん、在宅作業である。その場にサポートしてくれる人はいない。メールだけでは状況がうまく伝わるかわからないし、会話をしたほうが確実だ。つまり、有効な解決方法は、古式ゆかしき「電話」による問い合わせである。
電話の問い合わせには、当初、IT部門が対応にあたっていたものの、あまりの問い合わせの多さに、キャリア開発センターで問い合わせの振り分けが必要になったほどだ。
こうしてPFUと新人宅、オフラインでの闘いの末、ようやくオンラインで新人研修を行う準備は完了した。

オンラインでのコミュニケーションの工夫 ~同期のつながり形成をサポート~

オンラインでの新人教育は、対面での教育とは全く異なる。対面では当たり前にできることも、オンラインという状況では急にハードルが上がることもある。
通信環境の不安定さに困ることも多かったと敞田さんは言う。
「オンラインでは自習も多かったため、メリハリのために、点呼を朝・昼・夕とやっていたのですが、通信環境が悪くてすぐ抜けてしまう人がいたりして、出欠確認ひとつをとっても難しさがありました。オフラインなら口頭で伝えるような簡単な連絡事項でも、音声が聞こえにくい場合を考慮して、文字で見えるように資料を作ったり、グループワークの時間を長めにとって、通信状況によって全員そろうタイミングがまちまちでも、議論できる時間を確保するようにしたり、と日々、伝え方を工夫していました」

また、対面であれば自然にできていたコミュニケーションにも気を使ったという。
同期のつながりを作るのもこの研修の役割のひとつですが、オンラインでは、休み時間に雑談をして自然と交流を深めたりすることができません。そこで、グループワークで新人同士が話す時間を多く作ったり、グループ分けのときに異なる配属先の新人を混ぜるようにしたりすることで、できるだけいろいろな人と会話できる機会を作るよう心掛けました。
また、新人さんたちの体調の変化にも特に気を付けました。オンラインでは、体調の変化に気づきにくいので、その日の日報で体温や体調を報告してもらうようにし、体調の変化がある新人さんとは、個別に会話をして様子を確認しました」

オンラインでは対面に比べると細かく様子が見られずコミュニケーションが難しい面がある。信頼関係や交流を深めるためにも、伝え方やコミュニケーションの仕方を工夫することが必要なようだ。

ものづくり魂の継承 ~実際に手を動かすことの大切さ~

PFUの新人教育では、―特に、ハードウェア開発部門への配属者へは、例年、実際の装置を使用して手を動かして学ぶという部分を大事にしてきた。オンラインではできないこともある、それでも、新人たちにPFUの技術をしっかり伝えたい、という想いがあった。

「ハードウェア開発系の研修は、どうしてもできないもの以外は全部やる!という意気込みでした。今回、特別な機材が必要になるもの以外は、装置や機材を送って、在宅で手を動かしてもらう、という形で行いました。専門的な内容や実習のサポートについては、先輩社員にオンラインで質問をする時間を設けました」

PFUの技術を教える姿勢は情熱的だ。きっとその心意気は新人たちにも伝わったことだろう。

コロナがあらためて新人教育に向き合うきっかけに

今回、オンラインによる新人教育となったことは、あらためて新人教育のあるべき姿に向き合うきっかけにもなった。従来の教育内容を見直し、集合教育でやるべきもの、オンラインでできるものという切り分けを探ったことで、集合教育以外の選択肢も広がった。遠く離れた場所にいても一堂に会して話ができる。それが経験できたことは大きい。また、新人側も、他の人と話をしたり頼ったりすることが難しいからこそ、自立的な態度が感じられたという。講義によっては、オンラインのほうが理解度が高いものもあったそうだ。今後は新人教育にも、様々な形が生まれていくかもしれない。

敞田さんは言う。
「今回、オンラインでの新人教育をやり遂げられたのは、担当者みんなが「新人を無事に迎え入れる!」ことに一丸となって、それぞれがベストを尽くした結果だと思います。
今後も、予想できない事態は起こると思います。でも、いろいろな事ができないという状況でも、ただ「できない」とあきらめるだけじゃなく、なかなか変えられないことを『変える/変えられるチャンス!』ととらえることが大事だと思いました」

学生との相互理解を深めるオンラインインターンシップ

インターンシップは、企業が学生に就業体験を提供し、学生はその体験により自分の働くビジョンを考える機会を得る場だ。期間や開催方法は会社によって様々だが、PFUのインターンシップ―特に、開発職やSE職を志す学生向けのコースでは、例年、実際の開発現場に学生を受け入れ、体験を通してICTビジネスへの理解を深めるような活動を行っていた。
しかし、今年、コロナ禍の影響は採用活動にも及び、多くの企業では、インターンシップは中止、あるいはオンラインで開催はするが内容は職場説明のみとなるケースが多くみられた。

PFUのインターンシップを企画・運営した人事部の坂口さんは、オンラインでの開催が決まったとき、「他社ができていないことをできる、チャンスだ」と感じたという。
「最初は、不安もありました。もともと『“エンジニアの現場”に触れてもらう』のがウリのひとつでしたから、どうしよう、という悩みはありました。でもやはり、インターンシップの目的として、エンジニアとして働くことの楽しさを体験してもらうということは、オンラインでも変わらないと思ったので、そこから、オンラインで何ができるか、どうやってやるかを考えていきました。新人研修を経験された敞田さんや長年PFUでプログラミング教室をやっているCSR推進部にも協力いただいて、学生さんにロボットやスキャナーを郵送して、グループで開発体験やシステム構築体験をしてもらう、というインターンシップを行うことができました」

コミュニケーションを重視したワケ

オンラインでのコミュニケーションの難しさは、インターンシップでも変わらない。そこでインターンシップでは、カリキュラムのひとつに「オンラインでの働き方を考えてみる」という講座が設けられた。カメラやマイクの設定から、リアクション(反応)の仕方まで、自らの仕事でのオンラインツールの体験を踏まえて、学生たちにコミュニケーションの仕方を伝えた。
また、学生だけで話をできる時間を設けて、学生同士が交流できる場を意識して作った。
このように、コミュニケーションに気を配った理由を、SE向けのインターンシップを担当した人事部の矢部さんは次のように話してくれた。
「学生さんたちはずっとオンラインで授業を受けていて、学生同士で就活について話したりする機会もほとんどない、閉塞的な状況です。せっかくのインターンシップの機会なので、いろいろな人と話をして、自分とは違う考え方を知って、自分の将来を考える機会にしてほしい、と思いました」

オンラインのインターンシップは“リアルの代替ではない”

オンラインのインターンシップの狙いについて、坂口さんは次のように述べる。

「今回のインターンシップは、決して“リアルの代替ではない”ということは、常に意識していました。「オンラインだからこそできること」を学生さんに伝えたいと思っていました。学生さんからすると、「コロナ禍で、今までのように会社を知ることができない」というマイナスの気持ちがあると思います。しかし、ICT業界で働いている私たちからすると、すでに働き方や生活に大きな変革が起きていることを身をもって実感しています。この先、学生の皆さんが必ず直面するであろうオンラインを中心とした働き方、―ニューノーマルな働き方を、少しでも体験してもらいたい。そんなインターンシップを構築することが大きなテーマでした」

実際にインターンシップでこの話をしたところ、学生さんたちの顔つきは大きく変わった。
大きな変化に直面したとき、それをどう受け止めるか。変化を柔軟に受け入れていく姿勢こそが、ニューノーマルな時代に求められる資質かもしれない。

できないことがある、だからこそ、大切にしたもの

今回の取材を通して驚いたことがある。実は、取材当初は、コロナ禍という未曽有の事態の中で、新人教育やインターンシップの内容を工夫して頑張っている、そんな話になるだろうと思っていた。もちろん、工夫や取り組みはたくさんある。しかし、その話を聞いていく中で一番強く感じたのは、新人や学生自身の成長を願う担当者たちの想いだ。新人教育にしても、インターンシップにしても、それ自体がゴールではない。学生や新入社員は、研修を受けた「後」、自分の力で社会を歩んでいかなければならない。そのために必要な力を身につけてほしい。そんな想いを強く感じた。きっとそれはオンラインであっても、なくても、同じだっただろう。しかし、できないことが多くある状況だからこそ、彼らが大切にしてきたものがよりはっきりと見えたように感じた。

追い詰められた時にこそ、その本質をあらわにするのは、人も企業も同じだろう。
コロナ禍で追い詰められた状況でも、単に仕事をこなすというだけでなく、大切にすべきことを見据え、そのために行動を起こす、そんなPFUの本質が垣間見られた。

SHARE